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夫はあたしの心を

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ともかく購入してから一年未満もいいところ、何が何でも保証してもらわねば、と言う損得勘定が頭の中をよぎったけれど、その直後、これまで営々と作ってきたデーターはどうなるの?と言う不安が黒雲のようにむくむくと頭の中を満たし始めた。娘の言ったバックアップをしていないのが自らの責任という言葉があたしの心を貫いた。

 いくらお遊びだとしても、音楽だって写真だって、取り寄せたデーターだって、ブックマークだって、お友達からのメールだって、お手紙だって、家計簿だって、住所録だって、すべてが失われてしまったのだ。
茫然自失と言う言葉を自ら体験する羽目となった。

気を取り直し、ともかくサポーターの修理係に電話をした。
「もしもし……こうなんですよ」
「ともかく、購入したのはNECダイレクトなんですよ、どうしてくださいますの!」
女のあたしとしたことが、つい、力んでしまった。
「申し訳ございませんがお近くの宅急便で送っていただけませんか。梱包は宅急便屋がやりますから」
「修理は何日かかりますの?」
「凡そ一周間かかります」
「そんなに待てないわ。出張修理していただけませんの?」
「出来ますが出張費がかかりますので」
「そんなの、問題にしているわけではありませんよ」
「それなら8,500円ほどいただきますが宜しいでしょうか」
「いつ来てくださいます?」
あたしは、はしたなくも、荒々しい言葉遣いになっていた。

それから彼が来たのは一日おいた二日後であった。物静かな好青年をあたしのパソコンのおいてある私室に招き入れた。
本当なら夫以外は入れない部屋なのだけれど、仕方なかった。
技術者はこの症状を一度確かめたら、後は簡単だった。
ケースを開け、いきなり、メモリーを取り外した。メモリーは、250MBのものをあたしが追加していたのだけれど、それを外すことなく最初からついていたものを外した。そしていきなり布のようなものでこすり始めた。
「あら!静電気が……」
思わず言うと、
「大丈夫です」と言ってそれをはめて何か計器のようなもので調べたけど駄目みたいで、別の新しいものに取り替えた。
「ハードディスクじゃなかったんですね」
「そうです。Dドライブは問題ありません。それでは、Windowsを再セットアップします」
彼はそう言うと、黙々と作業を始めた。
 私は各画面でのプログラムを読み込む場面の間合いを待っている彼のために美味しいコーヒーを煎れてきて労った。
「美味しいです」
寡黙な彼がそう言ってから、凡そ一時間、あたしのパソコンは購入時に蘇った。
「それでは申し訳ありませんが、これで失礼いたします」
帰って行くと、私は、直ぐパソコンにとりついた。

先ずは、ディスクトップが気に入らない。これを直し、直ぐインターネットに繋いだ。これは別のNTTから借りているCTUが接続設定を記憶しているからUSBコードを差し込むだけ。
幸いなことにDドライブにエクスポートしておいた【お気に入り】が残っていた。これは不幸中の幸いであった。
あたしは、夕食の準備にかかるギリギリの時間までアプリケーションのほとんどをインストールした。

 子供達もいつもの通り帰ってきたし、夫は残業もなく平日帰宅であった。わたしは、パソコンの故障については彼に何も言わなかった。当たり前のことだけど。
今夜、夫はあたしを愛すだろう。一気に成し遂げたあたしの心を、彼はきっととらえるに違いない。
                                                          この稿つづく

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